どうか安らかな最期であるように
今年の10月は、間違いなく人生で最も過酷なひと月でした。
仕事もプライベートも、何もかも。
そのせいかわからないが、一段落して取得した連休中に発熱。ほぼ寝込んで連休が終わりました。
なんかもう色々疲れたけど、犬の健康が安泰なら私はもう他に何もいらない。
過酷だった仕事の話をしようとすると、
何かと守秘義務に反するので、言えることと言えば元々担当業務が多い月に、退職者担当分が追加で回ってきたのと
顧客が約束納期までにデータくれなかったおかげで仕事がギリギリになって、腹が立って言葉遣いが荒くなったことだけは、反省しています。
申し訳ありませんでした。
話しがそれました。
プライベートで過酷だったのは、犬の話です。
これはちょっと…すごく長くなります。
ここから先は、愛犬が僧帽弁閉鎖不全症と診断されている飼い主さんは、情報として知っておくといいかもしれません。
パピーの時に初診で心雑音が見つかり、精密検査で僧帽弁閉鎖不全症と診断、長らく経過観察してきた愛犬の心臓
そろそろ薬を使った方がいいという事になり、昨年末から投薬が始まりました。当時10歳。
元々、咳症状は出ていたものの、加齢により石灰化した気管由来か、心臓疾患由来か判別がつかない状態でしたが
様子を見ながら投薬を続ける中で、なんとなく咳が増えたのと、咳の種類が変わった気がした事を不安に思いながら迎えた定期検診で
心肥大が進行していることがわかり、薬の量を増やすことに。
体重に対する最大量、フルドーズ。
つまり、この投薬で抑え切れない心肥大は黙って見守ることしかできない。それが、投薬開始から約半年経った頃のこと。
この頃から明らかに咳が増え、寝てばかりいる犬が、飛び起きたかと思うと大きな咳を始めるように。
夫が「手術の選択肢があるらしい」と言い出したのも、ちょうどこの頃だった。
僧帽弁閉鎖不全症の投薬治療は対処療法であり、根本的な治療にはならない。
うちの犬の場合、心臓以外どこにも異常がなく、どうやら心臓の限界が真っ先にくる。
どういう最期を迎えることになるのか、想像はできていたが、かかりつけ医に単刀直入に質問をぶつけてみた。
最終的には入院生活か自宅で酸素室を用意しての生活、肺水腫のリスクと向き合う日々が待っているであろうこと、つまりは安らかな最期を迎えるのが難しいこと、どうやら残された時間が思っていたほど長くはないことを、言葉を選びながら告げられた。
手術について調べる中で、横浜にある専門医の著書から引用された長い長い文章に出会した。
手術の概要とリスクについて、高額な費用について、術後の生活について、個別の症例について、様々な角度から事細かに書かれた文章。
それは、獣医師の治療にかける熱意ある文章であり、時に生々しい現実に泣きながら読んだ。
手術と入院費、初診検査費を含めざっと200万。
術後は投薬が減る子も、投薬がいらなくなる子もいる。
費用は高額だが、幸い我が家は蓄えなら充分にあるし、他に使う予定もない。
現状の投薬治療でも年間何十万、いずれにせよ高額の費用はかかる。愛犬の状態は悪化している。
あとは、リスクの問題をどう考えるかだ。
その病院での手術の合併症による死亡率は5%
そんなに高くないと思いきや、見方をかえると20頭に1頭
なかなかドキッとする数字であることが理解できる。危ない、感覚に惑わされてはいけない。
正直、毎日2回決まった時間に投薬するというタスクを間違いなくこなさなくては、という飼い主側のプレッシャーもかなりのものだった。
一度だけ投薬を忘れたことがあり、二人でめちゃくちゃに落ち込んで、その後の対策について話し合ったりもした。
著書の一文には、投薬治療におけるそうした飼い主側の負担についても丁寧に触れられていた。
夫に横浜の専門医の話をすると、偶然同じ病院に辿り着いていた。
これは本当に運が良かったとしか言えないけれど、ありがたいことに、夫と私は感覚的に近いものを持っていて、この件で意見がぶつかることは一度もなく、話しはスムーズに進んだ。
互いに
盲目的にその獣医師の言葉だけを信じるのは危険だ、という認識はしっかりある。
弘法も筆の誤りという言葉があるように、たまたま執刀医の調子が悪い日に当たる可能性だってある。
それでも、何もせずに必ずや苦しむ未来を迎えることが怖い。愛犬を託すならこの先生がいいと思った。
この手術は決してリスクを取る選択ではなく、高い費用を負担して安らかな最期を迎える可能性を切り開く選択だと思った。
たくさん調べて悩んだ結果、二人で手術を選択する決意をした。
検診で、かかりつけ医に手術を考えていることを伝え、紹介状と初診の予約を依頼。(かかりつけ医で予約までしてもらうシステムらしい)
担当医は「数値的に利尿剤を最小量使うか迷うところだけど、手術希望なら条件として使った方が手術適用になるはずなので、今日処方します」との判断。
それが8月頭のこと。
横浜の専門医にて、予約の8月末に初診で検査した結果、逆流の程度などの心臓の状態、利尿剤処方により肺水腫が起きていないものの、使っていなければ肺水腫が起きていた可能性があり、手術適用であると診断され、その場で手術の日程を決めました。
利尿剤を処方した、かかりつけ医の判断のおかげもあったと思います。本当に感謝。
そして、その手術が10月だったわけです。
決断したものの、いざその日が近づくと不安な気持ちが大きくなったり、咳が止まらない犬の背中をさすりながら、いま肺水腫が起きて予定通り手術できなくなったらどうしようと不安になったり
心中忙しい日々でした。
当日、手術を待つ時間は体感ではとても長かったけど、実際には見送ってから2時間半くらい。
術後、表面の皮膚を縫合する様子を遠目に見ながら、執刀医から直接説明を受けました。
(可哀想で見れない方は診察室での説明になる模様。選ばせてくれます)
執刀医によると、心臓を開いたところ、弁膜と壁を繋ぐ腱索(けんさく)という糸状の組織が一部切れ、複数伸び切っていたとのことで、
その影響により、弁膜が閉じなくなっていたことが逆流悪化→急激な心肥大の原因だったようです。
うちの犬は出血が少なく、輸血しなかったことで術後の合併症リスクが一つ少なくて済みました。これはラッキーだった。
輸血はしなくても輸血準備費用の負担はあるし、血液型によっては輸血が用意できるまで手術予定を決められない事もあるようです。
役割りを果たせていない腱索の代わりに、壁と弁膜をゴアテックスの糸で繋いで、広がった心臓を巾着のようにキュッと絞って、弁膜が正常に閉じるよう処置をして心臓を閉じた結果、手術直後は逆流ゼロの状態になったとのことでした。
ただ、術後の状況は少しずつ変化するようなので、ぬか喜びしないように。ここは冷静に。
3ヶ月程度でゴアテックスが自己組織に覆われると、状況が安定するようです。生命の不思議。
その間に激しい運動をすれば、糸がほどけてしまうリスクもあるため、特に安静に。
1ヶ月後の検診まで、お散歩はNGです。
まぁ実際本当に大変だったのは犬の方で、人間はほとんどあたふたしていただけに等しいのだけど
うちでは犬の入院中に、退院後を過ごす自宅にできる限りの対策を施しました。
術後の安静に向け、まずは飛び乗るクセがあるソファを撤去。
使わないけど捨てられず、立てかけてやり過ごしていたマットレスをスノコの上に設置してソファの代わりに。
犬のケージ周りのスペースを囲い、走り回れないよう工夫。(うちはテンション上がると勝手に走りだしてしまうので)
運動に結びつく日常の動線を、出来る限りぶった斬りました。
手術すると決めてから、術後に向けてどこをどうするか、夫と意見を出し合って、事前に二人で構想を練っていました。
椅子に飛び乗る動作も、手術までにやめさせることが出来たので、もうやれることは全部やったなと(うちは「ダメ!」と言うと悪いことだと認識する&嫌がる事をセットにすると必ずやらなくなる。うん、賢い。)
心臓を止めて人工心肺を使用する大手術
元々、心臓以外はどこも悪くない健康体だったおかげか、術後は4日で退院できると言われたものの
こちらの受け入れ体制の問題(スノコの調整間に合わず、ごめん犬よ!早いよ!)で、一日延期してもらって5日で退院となりました。
術後の合併症については、リスクが細く長く付き纏うので、まだまだ安心とはいかないけれど、
今のところ数値はいずれも問題なく、現時点で僧帽弁の逆流はほとんどないので、薬を必要とはせず
ひとまずの予後は良好と言えます。
元来病院嫌いで震えが止まらなくなってしまう子なので、入院生活がよほどツラかったのか、一度面会に訪れた際に置いて行かれたのがショックだったのか
理由はわからないけど、退院してしばらくは怯えて自分のベッドから出てこなくなってしまい、本人の不安な気持ちを想像するととても心配になったのですが
それも数日で少しずつ解きほぐされていきました。
まだ少しだけ咳が出るので心配になりますが、検診の結果、心臓の状態は悪くないため、おそらく気管支が石灰化している影響と思われ…考えても仕方がないので、優しく背中をさすっています。
(手術翌日に初めて面会できた時の写真です。面会時間2分…)
退院後は やたらと甘えた声で鳴くのが可愛くて、好きなだけ甘やかしてしまう飼い主ふたり
左半身丸刈りになった姿がなんとも愛しくて
よう頑張ったね、えらかったね、ありがとね
と言ってそっと抱き締めながら、これからの時間をより良いものにできるように、と誓い
どうか安らかな最期であるように、と祈るのでした。
毛は3ヶ月で元に戻るそうです。なんにせよ、ひとつの区切りは3ヶ月。
情報としてひとつ
うちの場合はパピーの頃から心雑音があれど非常に軽微であり、定期的な検査できちんと経過観察をして、その度に「運動制限の必要はないか」と確認してきた。
投薬治療を開始する直前まで「運動制限は必要ない」との獣医師の指示を信じていた。
しかし、手術を受けた病院で『運動や興奮状態による弁膜への刺激が、弁膜の変性を促進するとされていること』を教えられ
本来、積極的な運動をさせることが適切ではなかったということを、私たちはそこで初めて知ったのです。
専門医による情報を早い段階で知っておくのは、その後の経過に少なからず影響するでしょう。
それが、犬のQOLにとって良いかどうかは別として。
私たちのかかりつけ医がそうだったように、
手術の選択について、病院側が提案してくれるとも限らないようなので
(うちの場合はかかりつけ医に話を切り出した時、否定的な発言があったので、こちらから言わなければ出て来なかっただろうな、と推察)
コストとリスクについて知った上で選択肢として考えてみる価値はあるのではと思い、こうして書いてみました。
若干自分の頭の整理的な側面もありますが…
質問あればコメントください。
わかることには、お答えします。